富士山
富士山は大きな水瓶
「富士山は大きな水瓶です」というと「そんなバカな」とは言わないまでも「何を言っているんだ」とけげんな顔をされるかもしれません。
富士山は、10万年前に誕生した火山です。もちろんその周囲にたくさんの湖があり、湧水があることはよく知られていて、その意味でも富士山と水は縁が深いわけです。
富士五湖は、山梨県側ですが、富士急行株式会社の創設者である堀内良平によって命名されたそうです。湧泉群として「忍野八海」などもあります。
静岡県側には、大きな湖はありませんが、富士山からの湧水を集めた多くの河川や湧水があります。富士宮と芝川地域には、潤井川と芝川があり、潤井川は湧玉池や富士宮周辺の湧水を集め、芝川は猪之頭湧水を水源として、白糸の滝の水などを集め、駿河湾に注いでいます。もちろん富士川も富士山の西側を回るように富士山からの水を受けて流れ下っています。
富士山の東側に目を向けると、柿田川は狩野川水系の日本で最も短い一級河川ですが、1日百万トンともいわれる大量の湧水を水源とする全国的にもめずらしい川です。
平成27年4月に亡くなられた土隆一静岡大名誉教授は、富士山の世界遺産登録に向けた推薦書の原案を作成した方です。先生は、富士山の環境保全に取り組む市民団体や企業、行政などのネットワーク組織「ふじさんネットワーク」の会長としても尽力され、大の富士山通でした。
その先生のお説に従えば、富士山の周辺の河川の流量、湧水量の総量は、534万トン。平均蒸発散量を降水量の22%と考え、逆算すると、降水量は685万トン/日で、年間降水量は25億トンと計算されるそうです。
富士山全域の降水は、表流水や蒸発する水以外は、ほとんどが地下へしみ込み、伏流水となり、やがて溶岩層の末端の山麓で湧き出ます。
この地下にしみ込んだ水が、どれくらいの期間を経て湧水となって地表に現れるかは、一説には60年間などともいわれました。しかし、土先生は、酸素・水素同位体から、中腹以上の降水は10-15年かかって山ろくにわき出ているとおっしゃっています。
これらの水が、東麓の御殿場市北部から小山町一帯では標高500mあたりを中心に湧き出て、酒匂川から相模湾へ。御殿場市南部の湧水は黄瀬川から駿河湾へと流れ出しています。
富士宮側では、白糸の滝などで、1日に10万トン以上の水が湧き出していて、富士宮浅間大社境内の湧玉池は、西麓最大の湧水量を誇り、かつては1日あたり40万トンもの水が湧き出していましたが、近ごろは1日20万トン程度になっています。これは下流域の市街地を中心に、1日70万トン以上の地下水を汲み上げていることで、地下水圧が減少したためと考えられています。
三島市の楽寿園にある小浜池は、三島溶岩流の末端の一部に位置し、ここもかつては1日20万トンもの湧水量があり、三島湧水群の代表的な湧水として、知られていましたが、現在は水位が下がって、水がなくなってしまうことが多くなっています。しかし、それも地下水のくみ上げによるもので、すぐ近くの柿田川では、今も1日80万トンから120万トンという豊かな水が湧き出しています。
これらの富士山の湧水の源である総貯水量は、1日約500万トン浸透する地下水が、1年365日15年かけて下流部で湧出していると仮定して計算すると、273億75百万トンに達します。これは琵琶湖の275億トンの貯水量にほぼ匹敵するものです。
富士山は単なる山でなくて、「大きな水瓶」であるということを改めて認識します。大変な貴重な資源と言わなければなりません。
ぜひ、遠くから眺める富士もすばらしいのですが、白糸の滝、富士宮浅間大社境内の湧玉池、三島市の楽寿園と源兵衛川、清水町の柿田川などなど、富士山の水をめぐる旅も一興と思います。
静岡県ホテル旅館生活衛生同業組合 専務理事 府川博明
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